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栄冠は君に輝く 〜連続テレビ小説 エールより〜

栄冠は君に輝く

 

この曲は、全国高等学校野球選手権大会の大会歌としてあまりにも有名だ。

 

私は高校生の頃、地方大会1回戦負けが定位置の、弱小チームの球児だった。

軟式野球で育った私は、プロと同じ硬球を使う高校野球に密かに憧れていた。例え弱小チームでも、硬球で野球をやるのは楽しかった。ボールが金属バットの芯に当たった時、バットを持つ手の力が一瞬抜けたように感じる、自らの力の全てをボールに乗せたあの瞬間、カキーンと高い音を響かせながら高々とボールが飛んでいくあの感覚は、経験者のみ知り得る醍醐味だろう。

 

弱小チームの夏は早く、早々に地方大会で負けた私は、そこに参加しているにも関わらず、高校野球はテレビで見る専門だった。

テレビの前ではいつも、甲子園での全国大会が放送され、放送のBGMには必ず、「栄冠は君に輝く」が流れる。

暑い夏の日、ガリガリ君を咥えながら甲子園での熱闘をテレビの前で見ていた私は、この歌は、甲子園にたどり着いた高校球児のための応援歌だと思っていた。

連続テレビ小説 エールを見るまでは。

 

私の祖父は、とある地方の山間にある農家だった。現在は他界しているが、私が子供の頃は、夏は毎年必ず1週間ほど帰省し、田畑の農作業を手伝いつつお盆の一連の行事に参加するのが恒例だった。

祖父は厳格な人で、戦前の男を地でいく人だった。「地震 雷 火事 親父」が4大恐いものだった時代の、まさに親父だった。私も帰省中、何度か雷を落とされたことがある。恐い思いはあったが、とても自分を律する人だったので、恐さの裏に畏敬の念があったことを覚えている。

20時には就寝し、朝は4時に起きる。農家なので、休みという概念が無い。天候が荒れた日以外は、毎日毎日畑や田んぼで農作業をしていた。

テレビはあったが、もちろんNHKしか見ない。ニュース、天気予報と多少歌謡曲の番組を見るくらい。20時には寝てしまうので、プロ野球中継なども見ない。娯楽とは縁遠く、農家の仕事に人生の全てを捧げているような人だった。

ただ、そんな祖父も熱心に見るテレビ番組があった。それは、春夏の全国高等学校野球選手権大会、甲子園の高校野球中継である。

 

私の祖父は20代前半の頃、太平洋戦争に従軍した経験を持つ。いわゆる赤紙が届いて招集された、当時の多くの若者のうちの一人だ。訓練後、戦場へ派遣される前日に病気になってしまい、派遣見送りとなったため戦場へ行っていないが、同じく訓練を受けていた仲間は派遣されたそうだ。病気が回復した後は、国内で通信兵をしていたらしい。

祖父には弟がいて、同様に赤紙で招集され、戦地へ派遣された。出兵後、東南アジアのある島で激しい戦闘の末、散ったそうだ。

祖父の弟の墓はあるが、骨は無い。遺品も無く、軍から戦死したとの連絡があったのみで、戦った場所や戦死した状況の詳しい連絡はなかったらしい。

祖父は孫の私たちに、戦時中の話をあまりしたことがない。軍ではどんな事をしていたか、話したがらなかった。これらの話は親から又聞きしたものである。しかし、軍の訓練で、仲間とどんなことをしていたかは、話してくれたことがあった。都会から来た連中は体力が無くてダメだった、自分が一番重い荷物を背負って一番遠くまで歩けた、など、体力自慢と共に、当時の様子を話してくれたことがある。

その時は、懐かしい思い出を、どちらかと言えば楽しそうに話す姿が印象的だった。

 

祖父が亡くなった時、遺品の整理をしていたら、戦地から家族に宛てた、従軍していた弟の葉書が仏壇の奥から出てきた。

歴史の教科書通り、その葉書には軍の検閲印があり、宛てた内容を確認された形跡が見て取れた。封筒に何通かの葉書が入っており、その内容はどれも同じようなもので、両親に対し送られたものだった。内容がどれも似たようなものだったのは、検閲があり自由に書けなかったためだろう。これも歴史の教科書通りだ。

祖父の両親、私から見れば曽祖父母は私が産まれる前に亡くなっているので、仏壇の遺影でしか知らない。曽祖父母に宛てたこれらの手紙は、なぜ曽祖父母が亡くなった時に棺に一緒に入れなかったのだろう。私の祖父は、自分の目の黒いうちは手元に残しておきたかったのだろうか。

 

 毎年夏、テレビをほとんど見ない祖父が、農作業の合間の休み時間に熱心に高校野球中継を見ていたのが、子供心に不思議だった。

そんなに高校野球って面白いのか?野球のプレーレベルで言えば、明らかにプロ野球の方が面白いのに、なぜそっちは見ないで高校野球ばかりみているのだろう、と。

私の祖父だけではない。多くの人々が、夏の高校野球中継を見て、熱心に応援する。この時期は、民放含め、どのテレビ局もスポーツニュースでその日の試合のダイジェストを放送する。つまり、日本国民の多くは高校野球が好きなのだ。 

 

 なぜ国民はこれほどまでに高校野球が好きなのか。

 

私はこのドラマで、佐藤久志役の山崎育三郎さんが歌う「栄冠は君に輝く」を聞いて、なぜ祖父が夏になれば必ず高校野球中継を見ていたか、わかった気がした。

 

高校野球は、この時代の人たちにとって、高校生の野球を観戦する、ただそれだけではなかったのだ。

父、母、兄、姉、弟、妹、従兄弟、友人、先輩、後輩、息子、娘を戦争で亡くし、命を捧げた戦に負け、

悔しくて、

悲しくて、

情けなくて、

全てを失って、

無力さに打ちひしがれていた人たちが甲子園で見ていたもの。

 

それは、あの戦争で、海へ、空へ、戦地へ儚く散っていった、若者たちの姿だ。

 

甲子園でプレーする高校球児に、散っていった若者たちの姿を重ね、応援していたのだ。

 

そして、私は気づいた。

 

 

この歌は、当時の全国民へ向けた応援歌、エールだったということに。

 

 

 

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